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上田簡易裁判所 昭和36年(ほ)1号 判決 1961年11月06日

被告人 竹内泉

再審開始決定

(被告人氏名略)

右の者に対する道路交通法違反被告事件について、当裁判所は請求人及び相手方の意見を聞いた上、次のとおり決定する。

主文

竹内泉に対する道路交通法違反被告事件の再審を開始する。

理由

右の者に対する道路交通法違反被告事件(昭和三十六年三月二十日付請求)につき、昭和三十六年三月二十三日上田簡易裁判所が被告人(被申請人)を道路交通法違反罪により罰金二千円に処し、該命令は同年四月十一日確定したものであるところ、検察官から昭和三十六年十月十六日当裁判所に対し、刑事訴訟法第四三五条第六号に該当する事由があるものとして、同事件につき再審の請求があつたので理由あるものと認めた。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 柏原允)

検察官の再審請求理由

一 本件は、竹内泉の免許証不携帯被疑事件として立件送致され、上田区検察庁において、葉書による略式手続の告知をなし、同人より署名押印のある申述書の送付を得て、昭和三十六年三月二十日上田簡易裁判所に対し、略式命令の請求をなしたところ、別添謄本のとおり同裁判所より「第一種原動機付自転車の運転免許を受けた者であるが、昭和三十六年二月二十一日午後一時十分ころ、上田市大字大屋四七九番地附近道路において、運転免許証を携帯しないで、第一種原動機付自転車を運転したものである」。との事実に対し、罰金二千円に処する旨の略式命令の発付があり、同命令はそのまま経過して同年四月十一日確定し、同日納付の告知書を発し、次いで五月九日督促をなすもその間何等の回答のないまま納入しなかつた為め、五月十五日収監状を発付執行引致したところ右竹内泉は右の事実につき取調べを受けた事はなく、人違いであると申立て検挙警察官による面通し等を行つたところ竹内泉を真犯人と認める事が難く人違いと思料され、その後捜査を継続したところ次の事実が判明した。

二 すなわち

(1) 本件は被告人の甥である「三橋政男」が真犯人であり「政男」は昭和三十六年二月二十一日午後一時十分ころ上田市大字大屋四七九番地先道路において、内縁関係にあつた「安達美恵子」を荷台に同乗させて、第一種原動機付自転車を運転中、上田警察署司法巡査宮本則雄の取締を受けた。その際、真実は、運転免許証がないのに無免許運転の事実を秘し、叔父「竹内泉」の氏名を冒用し、「免許証は家に忘れて来た」と虚偽の供述をした。

(2) 三橋政男と内縁関係にあつた安達美恵子は所在不明にして取調べ不能であるが、同女が三橋政男と内縁継続中同女の養母赤池雅子に対し、三橋の車に同乗中大屋地先において取締を受け罰金三千円(確定した罰金と千円喰違いがある)の処分を受けた事実を漏らした事実がある旨供述している。

(3) 取締時の供述調書中三橋政男は妻の氏名を、初め恵美子と言い直ちと光子と竹内泉の妻の名を訂正している事が供述調書中見られ、取締時に供述した本籍、住居は竹内泉のそれに一致し、只生年月日が竹内泉は大正十一年一月八日生であるのに、三橋自身の昭和十一年九月二十日生と供述している。

(4) よつて上田区検察庁において、本件三橋政男の犯行と認め同三十六年九月一日上田簡易裁判所に略式命令の請求をしたところ、同日別添謄本のごとき略式命令が発付され該命令は同月二十六日確定するに至つたのである。

三 右の事実は別添一件記録編綴中の次の証拠書類により明瞭である。

1 昭和三十六年八月二十五日付及び同年九月七日付三橋政男の熱海区検察庁検察官副検事山村寅松に対する供述調書。

2 昭和三十六年六月二十二日付赤池雅子の上田区検察庁検察官事務取扱検察事務官森山虎雄に対する供述調書。

3 昭和三十六年二月二十一日付竹内泉(三橋政男)の上田警察署司法巡査宮本則雄に対する供述調書。

4 三橋政男の戸籍謄本。

5 昭和三十六年六月十六日付及び同月二十二日付宮本則雄の上田区検察庁検察官事務取扱検察事務官森山虎雄に対する供述調書。

6 昭和三十六年六月十七日付及び同月二十一日付竹内泉の上田区検察庁検察官事務取扱検察事務官森山虎雄に対する供述調書。

7 昭和三十六年九月一日上田簡易裁判所い二、〇九一号三橋政男に対する略式命令謄本。

8 昭和三十六年九月二十六日付小平夏雄の上田区検察庁検察官事務取扱検察事務官森山虎雄に対する供述調書。

四、以上の次第で本件上田簡易裁判所の発した前記略式命令は真犯人でない前記「竹内泉」を有罪としたものであるから同人の利益のため再審によりこれを破棄し、同人に対して無罪の言渡を求めるを相当とするので、右証拠書類を添えて再審の請求をするものである。

(添付書類省略)

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